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母の身終い

2014.01.28

立て続けに映画を見に行っています。

昨年末は、「ハンナ・アーレント」。ヴァージニア・ウルフを題材にした「めぐりあう時間たち」。今年に入って、白黒サイレントで、カルメンと白雪姫を題材にした「ブランカニエベス」。
そして、今回紹介するフランス映画「母の身終い」。

麻薬密輸を手伝った罪で18ヶ月刑務所に入っていた男が釈放され、馬の合わない几帳面な母親の家で暮らし始める。お互いうまく距離感が取れずにぶつかってばかり。母は末期の脳腫瘍。ふと男が睡眠薬を飲もうと引き出しを開けると、母の尊厳死に同意するサインを発見する。
舞台はフランスなので、幇助自殺は認められておらず、スイスの施設にて執り行われる。

映画の目的は尊厳死に主題があるのではなく、親子の葛藤とその和解のためのツールとして描きたいのだということは見てとれる。
しかし、それを見るだけならフランス映画でなくても、多くの小説にも描かれているし、個人的には興味を引かれることはありません。
映画評を見ると、「重い」という言葉が多く見られましたが、まったく重さを感じることはありませんでした。音楽もほとんどなく、じっくりひとつのシーンに向き合うようになっています。それが重いとされる所以でしょうが、しっかり向き合えばそれは重さではなくなります。流れに目を背けるので、余計な力を使うがゆえに重さを感じてしまうのでしょう。

エンディングのすばらしいこと。
スイスの施設で、鎮静剤をぐいっと飲み干す様はソクラテスが毒人参をあおるのを思い起こさせる。
あっさり亡くなってそこで終わり。妙な余韻を残さず、完璧な終わり方であったと思います。
実際は5日間かけてじっくり行うようですが、映画では施設についてすぐ終わり。

ところで、尊厳死と安楽死は異なる概念で、しかもややこしいことに世界共通ではありません。
延命治療を拒否することも、また自殺幇助も尊厳死で、安楽死は尊厳死に含まれます。
ところが日本では、尊厳死協会は安楽死に反対している。
「患者が苦しむのを長引かせないために、延命治療を中止する。」これが尊厳死として捉えられ、積極的な自殺幇助という形で死期を早めることを安楽死とします。
尊厳死でさえ、なかなか理解を得られない中、安楽死はまだまだ前途多難でしょう。
キリスト教国は命は神から授けられたものなので、自殺は罪だという観念を持っています。死ねば地獄。
患者当人はOKだとしても、家族の同意はなかなか得られないでしょう。

生きる権利があるなら、死ぬ権利もある。これは非常に単純な論理なのですが、どうもそうは思えないようです。
死ぬ権利が堂々と認められてこそ、生も主体的に生きやすくなるだろうと私はずっと考えていました。死ぬことが後ろめたいものであれば、生きることもまた後ろめたい。
もちろん死を勧める気はさらさらありませんが、生存するに限界を感じたときに、そういう権利があることはまた一つの救いなのではないでしょうか。その権利は自殺する方向だけでなく、自殺しようとする者を楽にして生に向かわしめるものになるかもしれません。

まだまだこういう話はタブーで、見たくないものでしょう。
しかし見ないから重いので、ありのままの生または死は重くも軽くもないはずです。
私自身はこの映画を見て、爽快さすら感じました。あまり観客はいませんでしたが、「ハンナ・アーレント」とともに見ていただきたい映画です。


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母の身終い

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